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もうひとつのサンタランド!〜夜空に輝く夢花火〜その2

2017年12月20日

ミュージカル「サンタランド!〜夜空に輝く夢花火〜」のスピンオフストーリー第2弾。
作:菊池拓帆 絵:山崎大昇

 
 彼が転校してからの中学校生活はほとんど覚えてない。 何も楽しくなく、いつも一人だった。 叔母さんと話すこともほとんどなくなった。
たまに帰ってきてくれた時に話す程度だ。
だから日常の話し相手はもっぱらミカンだった。何かあるとすぐにミカンに報告した。
 
 この時にハマったのが映画だった。
最初はアニメばかりだったけど、だんだんと実写の邦画も洋画も観るようになっていった。
大好きな甘いものを食べながら観る映画がとてつもなく幸せな時間だった。
特に衝撃を受けたのが、チャップリンだった。
「街の灯」という映画を見た時は心の底から感動した。うまくいかないことだらけだけど、いつかは報われるのかも、そんな風に思わせてくれる作品だった。

だけど、何も報われなかった。


中学三年の冬、あのイベントが復活した。
「冬花火、今年はやるらしいよ!」 興奮して語る生徒たちの中には私の家がかつてその花火大会で打ち上げられる花火を作っていた家庭だったなんて覚えてる人はいなかった。
私にとっては一大事でも、他の人にとっては忘れ去られた過去で、私はこの街にいる限り、憂鬱な日々を送らないといけないのだ。
中学を卒業したら、この街を出て働こう。私はそう思った。 ある日の学校の帰り道、通学路を歩いていると、野苺のなる丘に向かおうとする親子を目にした。

お父さんと二人の姉妹のその親子は仲睦まじく、花火の話をしていた。
聞きたくないと思って耳をシャットダウンしてても、嫌でも話は耳に入ってきた。 どうやらお父さんは新しく冬花火を作ることになった花火師で、娘たちはそれを野苺のなる丘から見ようとしてるらしい。 お姉ちゃんの方は私と同じ年くらい。妹の方は少し下くらいだ。だけどたぶん学校は違う。
見たことのない親子になんだか苛立ちと寂しさと少しの嫉妬を感じていた。



失敗しちゃえ。そう思っていた。

「いくらパパでも、前の冬花火は超えられないよ」

そんな声を娘たちが言ってて、どーでもいいけど、なんだかスカッとしたのを覚えている。

たしかその日の夜だ。私は叔母さんと喧嘩をした。私が働きたいと言ったからだ。

高校は出なさい、と言う叔母さんの言葉に私は真っ向から反対した。
叔母さんはどうやら、自分に対して気を遣ってると思っているらしい。
でも私は違う。この街が嫌いなのだ。
そのことを伝えようとしたけど、やめた。
叔母さんに嫌われるのが怖かったのだ。一人になるのが怖くなったのだ。
私は叔母さんが大好きだった。
あと三年くらい自分の気持ちを押し殺して叔母さんと一緒にいられるのなら、それもいいなって思ったのだった。
だけど、翌年、私が高校に進学をしてすぐ、叔母さんはそんな私の気持ちを裏切った。


私が高校に進学してすぐ、叔母さんは結婚した。
叔母さんからしたらせめて私が中学へ行き、高校に進学するまでは面倒見るべき、という想いがあったらしく、今の旦那さんからのプロポーズを先延ばしにしていたらしい。
高校に上がっても資金面の工面はしてくれている。
側から見たらありがたい話だったが、私からしたらそんなものは小さな親切大きなお世話、優しさの押し売りみたいなものだった。
叔母さんに裏切られた感じが強かったのだ。
再婚である叔母さんは結婚式を挙げなかった。
それでも親族揃っての食事会が開かれようとしており、両親を亡くしている叔母さんにとって私は唯一とも言っていい家族であったが、私はその食事会を体調不良と偽り、欠席した。
本当は祝ってあげたい気持ちもあった。
旦那さんになった人は叔母さんが昔から憧れていたという仕事の上司だという人だったし、その人の話は叔母さんの晩酌に付き合ってたときから頻繁に聞いていたからだ。
でもそれ以上に叔母さんが遠くへ行ってしまうのが寂しくて、素直には喜ぶことができなかった。
しかも叔母さんは東京へ行く。
今住んでるところの名義をそのままではあったが、実質私は一人暮らしとなった。

ひとりぼっちになった。

高校へいくといじめもなくなるかも、そう期待していた自分が甘かった。
こんな田舎町の高校じゃ、ほとんどが中学からの持ち上がり。知らない人は数えるほどしかいなかった。
孤独がさらに私に重くのしかかってきた。
叔母さんから毎月仕送りが送られることになったが、私はそれに手をつけることがなんだか嫌だった。
そこで私はアルバイトをすることにした。動物園の中にあるカフェだ。

カフェは店長のオジさんが一人と、あとはシフト違いで会うことがないオジさんの奥さんで切り盛りしていた。
  その日の私は入学してまだ日も経ってないのにも関わらず、学校をサボった。
何が嫌だったわけでもない、全部が嫌で逃げ出したかった。
ただなんとなく、サボりたくて、ただなんとなく目にした動物園に立ち寄った。

動物は昔から好きだった。
ミカンのことは相変わらず大好きだし、毎日遊んで癒されていた。
そんな私が動物園の中で目にしたのは一頭のトナカイだった。

そのトナカイにはツノがなかった。
その姿は私にはなんだか、間抜けに見えた。だけど、そんな間抜けなトナカイに私は惹かれていた。
学校をサボることはなくなったけど、何度も何度もそのトナカイに会いにいった。
するとそのうち、一人のオジさんが私に声をかけてきた。
それが、私が働くことになったカフェの店長だった。

店長は私が何度もそのトナカイを見にやってくるのをずっと店から見ていたのだ。
店はトナカイの檻のすぐ側にある。
「トナカイが好きなのかい?」 オジさんに聞かれた時に、私はふいに、否定した。
否定したにも関わらず、オジさんはトナカイの話を続けた。
トナカイは群れで生きる動物だということをその時に聞いた。
群れで生きるのに、ここではたったの一頭で生活してる。
そんなことに私はなんだか親近感が湧いてしまった。

オジさんは私に店で働かないかと聞いてきた。
奥さんの体調が優れず、前ほど頻繁に店で働くことができなくなったのだという。
私は流されるまま、バイトをすることになった。


働くというのはこんなに楽なものなのか、というくらい店にお客さんはほとんど来なかった。
土日こそ軽く賑わえど、平日はほとんど閑古鳥が鳴いていた。
私はガラガラの店内から、いつもあのツノのないトナカイを眺めていた。
なるほど確かに、私があそこへ通いつめていたことにオジさんが気になるのも頷ける、という具合にその場所からトナカイの檻は見やすかった。
でも、私がいなくなった今、トナカイの檻で立ち止まる客はほとんどいなかった。
誰に見られることもなく見世物にされるトナカイを遠くから眺めて、憐れみを通り越して自業自得なのではないかとも思い始めてきた。
ツノがないアンタが悪いのよ、というように。



夏が過ぎて、私はバイトを辞めた。
というより、辞めなければならなくなった。
店長の奥さんが亡くなり、店長は店を畳むことになったのだ。
私はまたしても居場所をなくした。
店が無くなってからも私はあのトナカイに会うためにしばらく動物園に通った。
だけどしばらくしてそれもやめた。
トナカイは別の動物園に移されました、という張り紙が檻に貼られていたからだ。
私は別の動物園へ行ったあのツノのないトナカイの未来を想像した。
今まで孤独だったアイツにも友達ができるのだろうか。
だけどアイツにはツノがない。
ツノがないからといじめられるのではないだろうか。
そう少し考えたのち、私は考えるのをやめた。どうせもう、会うことないヤツだ。   バイトをやめたことで、私はやはり叔母さんの仕送りに頼らざるを得なくなった。
とても悔しかったけど、何もない私には仕方ないことだった。
  そう何もなくなった。 家族もない。 友達もいない。 夢も…。 学校と家をなんの目的もなくただただ往復する毎日。ミカンだけが心の支え。   私は開き直れた。 ミカンがいるなら、それでいい。ミカンさえいてくれたら私は生きていける。   ミカンさえ…。   そんな私の何もない生活の中に、見たことのない光が射したのは高校一年の冬の出来事だった。   その時の私はその光を光とも思わない、暗闇の中にいた。

(つづく)

 


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